9ー<7>金色の西日
「ママに何かお土産を買っていこうか」 「うん」元気な返事が帰ってきた。 「何がいいかな、これなんかいいかな」黄色い下地にサザエさん一家が描かれている。エプロンである。娘(3歳8ヶ月)はなぜか黄色が好きだ。 「これ着てもらって、おいしい物をつくってもらおうよ」 「うん」さらに元気がよい。
きょうは娘と2人で「長谷川町子美術館」に行った。1階奥にある狭い売店にニは、記念品が売られている。娘は自分では、ボールペンを選んだ。 ママは連休なのにきょう一日仕事である。ママが帰る30分前に帰宅した。娘は「もう、ママ、帰ってくるー」と聞いて、玄関にお土産袋を抱えて座り込んだ。その小さな娘の姿に、金色の西日があたっている。
「もし、立川ですよ。ここで降りるのではないですか。」前の座席に座った中年男性が声をかけてくれた。終点の立川駅についても、私と娘は眠り込んでいた。私はあわてた。 「おい、起きてくれ、降りるんだよ。」娘に声かけをしたが、娘は何が起きたか分かろうはずがない。突然、起こされてぐずり始めた。でも、親切に声をかけていただき助かった。あわてて娘と荷物入れを抱きかかえて、電車を降りた。駅には行楽帰りの人々が渦を巻いている。そこを縫って切り抜け、駅ビル内の椅子に座り込んだ。娘はしばらく寝転びながら、自分の心身が覚醒するのを待っている。
いつも思う。この子が30歳の時には、私は80過ぎなんだと。だから、日々、抱っこしても、おんぶしても力が沸いてくることを。
桜新町の駅から、美術館まで娘の足だと20分かかった。商店街の道には、サザエさん一家の絵が描かれている。そして、美術館を出て、4月から週1回非常勤講師をしている大学まで、ほとんど娘をおんぶして10分程度歩いた。娘も喜んで、来る途中大きなビルを見て「あそこより学校は大きいの」と興味を示してくれた。 「ここが、パパが仕事をしている学校だよ」と言っても、閑散とした学校には興味がない。それより、先ほど見ていた大きな桜の幹のヤニの方が気にかかっているようである。 「これは虫さんのごはんだよ」と、誰に教わったのか、しきりに私に教えてくれる。「そうか、まあ、ここまで来れてよかったよ。写真を撮ろう」
美術館を出て、入り口前で写真を撮ろうとしたら、自転車に乗って休憩していた男性が親切に「写真撮りましょうか」と言ってくれた。うれしいことである。この写真はきっと大切なものになる。そして、次に行ってみる大学で撮る写真も、娘にとってかけがえのない貴重な1枚になることを祈る。 「パパが、働いている学校だから。疲れたけど行ってみよう」ここまで来て行かなかったら、もう来れないかもしれない。「うん、行くよ」私はうれしくてたまらなかった。
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