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2018年1月 3日 (水)

7-1 消えたヘッセとロック

(エッセイ)     

 

 久しぶりに夜、散歩に出た。このごろは娘(四歳)と夕食後に遊んでいるので、なかなか出られない。きょうは隙を見てふらりと外へ逃げた。コースは飼い犬のヘッセ(ラブラドール・レトリーバーの雌)とロック(黒柴犬の雄)と親しんだ散歩コースである。

玄関から足を踏み出すと同時に、二匹との散歩が思い出される。月日は容赦なく刻々と進み、あれから三年も過ぎてしまった。

 そう、こんな季節の風がやさしく吹く夜には、ヘッセ、ロックとの散歩が一番だった。夕食時に飲んだビールの酔いが冷め切れぬうちに、私たちはよく家を抜け出して夜風に吹かれた。

さっきからヘッセは散歩に出ることを感づき、私の動きをきょろきょろと探っている。

「わかっているさ、行きたいよな」

サークル内のヘッセの方を向いた。するとヘッセはがばっと立ち上がり、そわそわとサークル内を行き来しながら私の様子を伺った。

「よし、行こう」

そんな夜の散歩の習慣ができた頃だ。ヘッセが丁度四歳の時、一つ年上のロックが加わった。二匹は子ども時代から、散歩で知り合った仲のよい遊び友達である。近所の中学生に飼われていたが、引越しで飼えなくなり、私が引き取ったのだ。

最初、ロックはわが家のしきたりがわからず戸惑い、ヘッセの真似ばかりしていた。

「寝てないでロック。散歩、散歩。ヘッセは起ち上ってるぞ」

やっと背伸びをしながら起きる。

ヘッセがせっかちであるなら、ロックはのんびり屋であった。

 三年前の今月今夜、深夜になりヘッセとロックを探しに家を出た。雨が上がり、きょうみたいに風がやさしい夜だった。

私の帰宅は遅かった。二匹は夕刻小雨が降る中、庭から忽然と消えてしまった。妻が散歩を終えて、庭の奥の囲いに鍵をかけて放しておいた。と言うが……。

妻は急いで娘の薬を取りに車で出かけた。この四十分ぐらいの間のことである。囲いの鍵は開いていた(開けられていた)。二階には当時一歳九か月の娘と、娘の世話してくれていたヘルパーさんがいたが、何も気づかなかったと言う。

ロックよ。お前を大好きだった娘を覚えているかい。もう四歳になったよ。夕刻、散歩から帰り玄関のところで餌を食べていると、丁度その時間に娘が保育園から帰って来る。娘はいつも「ロック、ロック」と言って、水を汲んで来ては飲ませてくれた。私は娘がそのことを忘れないように、いつも、いつも話しているのだよ。ロック、どうしているかな。

ヘッセよ。お前のことが心配だ。居なくなる前の日に通院して、やっと血便の原因がわかった。これで薬を飲めば治ると医者は言っていた。治療のメドが立って安心していた矢先の出来事だ。

どうかな、治ったかな。やんちゃで人懐こく、誰からも愛されたヘッセ。でも最近は神経質で痩せていたヘッセ。病気は治ったかな。

さあ、もうあの橋を渡ったら帰るよ。今夜はお前たちの友達には会えなかった。でも、お前たちと一緒の散歩の気分を取り戻すことが出来て幸せになった。

夜の川面に反射する光、草木がやさしく風に吹かれる姿、そして、家々の窓からもれる灯りも……。

みんな、かってヘッセとロックがその美しさを教えてくれたことだ。

                  

 

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